監視状態 《筆》著糸町名
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これは僕の友達から聞いた話なんだけど……。
友達――Sっていうんだけど、彼が大学一年のときに、ある同級生の一人から相談を受けたらしいんだ。
それでその相談の内容っていうのが、『誰か霊感の強い知り合いがいないか?』ってものだったんだって。
当然、Sは戸惑ったみたい。いきなりそんなこと言われたら誰だって驚くよね。
でね。とりあえず、Sは詳しい事情を聞くことにしたんだ。
その相談を持ちかけた同級生――確かRさんだったかな――が言うには、『自分は今アパートで一人暮らししているんだが、自分の住んでいる部屋はなにかおかしい。いつも誰かに見られてる気がしてしょうがない』らしい。
Sが気のせいじゃないか? とか、壁に死体でも埋まってましたってオチじゃないか? て反応を返したら、Rさんは『そんなことはない』と。
『気のせいなんかじゃ済ませられない程視線を感じるし、あのアパートの壁じゃ死体なんか埋められっこない。絶対あの部屋には何か居るに決まっている。早いとこ、霊感が強い人を呼んできてなんとかしてほしい』って興奮気味にまくし立ててきたんだって。
そんなの霊媒師を呼べよってSは言ったんだけど、Rさんは『金がかかるから嫌だ』って。……なんか考えてみると、このRさんってわがままだね。
まぁいいや。それでSはRさんの勢いに押されて渋々、自分は霊感がものすごく強いって豪語してた高校時代の友人Kくんを電話で呼んで、そのアパートを見てきてもらったんだ。
それから二日ほど経ってね。今度はSに、Kくんから電話がきた。
携帯の通話ボタンを押した直後に、「今、Rさんの住んでるアパートを見てきた」ってKくんが早口で言ったんだって。電話越しでも、Kくんが今すごく興奮してるのがわかったらしい。
そしてKくんが、「悪いことは言わない、Rさんは今すぐ引越しをしたほうがいい」って言ってきたんだって。
なんだそりゃ、あの部屋の中にはなにが居たんだ? てSが聞いたら、Kくんは「いや、俺はその人の部屋には一歩も入ってない」と。
この後にSがKくんから詳しく聞いた話は、要約するとこんな感じ。
Kくんはそのアパートを見た瞬間に、腰を抜かしかけたんだって。
何故なら、そのRさんが住んでるアパートには、その建物全体をすっぽり覆うような形で、ものすごく大きい半透明な女の顔が見えたからなんだってさ。
それでね、そのRさんが住んでる部屋の位置はね、ちょうど女の顔の【目】にあたる部分だったんだって。
つまりRさんは、ずっと女の【目】の中に居続けていたってことになるんだよ。
これはもうRさんにしてみればたまったものじゃないよね。その女の監視してる水槽で生活していたようなものなんだから。
それは視線を感じて当たり前……というか、この場合はRさんの方が見ていたってことになるのかな? まぁとにかく、そんなわけだったんだ。
もちろんその後、Rさんはこの話を聞いて即行引っ越したらしいよ。
Rさんには同情するけどさ、僕はそれよりも、その女の【口】にあたる部分で生活してる人の方が気になるんだよね。
無事なのかな? それとも……。
さ、僕の話はこれでおしまい。次は誰の番?
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