家電製品の中に    《筆》著糸町名
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 これから俺が話すことを、お前が信じようが信じまいが勝手だけどな。

……いやすまん、やっぱ信じてくれ。じゃないと誤解が解けない。

俺は自分が体験したことをありのまま、脚色一切なしで話すぞ。

いいか、ちゃんと聞けよ。

 

俺ってさ、ほら、どういうワケか幽霊とかそういう類のものに好かれやすい体質なんだよね。

それはお前もよく知ってるだろ?

だからさ、前のアレもこの変な体質のせいで起きたことだったわけ。

怪談ものの出だしとしてはかなり陳腐になっちまうけど、俺昨日、夜中の二時ぐらいに猛烈に喉が渇いてさ。なんか飲もうと思って、リビングまで行ったんだよ。

それで、買いだめしたコーラでも探そうと思って、冷蔵庫を開けたらさ。

……あれは完全に不意打ちだったね。

中にさ、見たこともねぇ女が入ってたんだよ。どういうわけか下着姿で。

一発見ただけで、そいつが生きてない――幽霊だってことはわかった。

なにせ、やたら髪は長いし、蝋人形が裸足で逃げるくらいに顔色悪いし、腹は血まみれで無数の刺し傷があってさ、ご丁寧に包丁が刺さりっぱなしだったからな。

それから、その女が真っ白い顔で、呆気にとられてる俺のことをジッと見つめてからな。

ニタ、て笑いやがったんだ。

これで腰抜かさないほうが変だろ? だから俺はあの時、床に尻餅ついてたわけ。OK?

で、俺がへたりこんだのをチャンスと思ったのかどうかは知らないけど、その女が冷蔵庫から這い出てきた。

四つん這いになって、まるでトカゲみたいに俺のほうに近寄って来ると、俺を押し倒すような形で圧し掛かってきたわけよ。

 そして、最悪を通り越した顔を、俺に近づけてきて――、

 

ぶちゅう、と。俺にキスしたんだ。

 

こういうこと。俺はちゃんと真実を話してるからな。

つまり、あれは完全な不可抗力だったんだよ。これでわかったか?

……んだよその目。ひょっとしてお前、信じてないのか?

大体だな、あれはお前のタイミングの悪さだってあるんだからな。

あんな、俺がキスされた瞬間に現れやがって。

日本中探しても、あれが浮気現場に見える奴なんか、お前一人だと思うぞ。

あの後、お前があの女の幽霊追っ払ってくれたからいいようなものの、下手してたら俺、魂抜かれて死んでたかもしれないし。

――いや、でもそう考えると。

俺、お前に助けられたことになるんだよな。

えーと、すまん。ありがとう。感謝はしてる。

けどな。……ああ、もういいや。

悪かったよ。俺が油断してた。もうどんな幽霊にもキスされないようにするからさ。

第一あんな女、俺が好きになるわけないだろ。お前のほうが百万倍かわいいし。な、機嫌直してくれよ。

俺、腹減ったんだよ。

ご飯、温めたいんだよ。

 

いい加減、電子レンジの中から出てきてくれない?




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